営業の話をしていると、必ずどこかでこの質問が出ます。
「手土産くらいは持っていったほうがいいんでしょうか」
ビジネスの常識で考えれば、訪問時に何か持参するのは自然な発想です。ただ、介護保険の世界ではその常識が通用しません。
先に答えを書きます。紹介の見返りと受け取られる余地があるものは、金額に関係なく避けてください。菓子折りひとつでも同じです。
この記事では、何がなぜ禁じられているのかを条文の中身から確認したうえで、現場でよくある場面をケース別に整理します。そして最後に、手土産の代わりに何を持っていけばいいのかという話をします。実はここがいちばん大事なところです。
先にお断り
本記事は法令の一般的な考え方を整理したものです。個別の事案について法的判断を示すものではありません。実際の判断にあたっては、指定権者(都道府県・市区町村の介護保険担当課)にご確認ください。自治体によって考え方に幅があります。
1. 何が禁じられているのか|条文の中身
根拠になるのは、指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準です。ここに、居宅介護支援事業者およびその従業者は、利用者に特定の事業者によるサービスを利用させることの対償として、金品その他の財産上の利益を収受してはならないという趣旨の規定が置かれています。
読むときに注意したいのが主語です。禁じられているのはケアマネジャー側が受け取ることであって、事業者側が渡すことを直接名指しした規定ではありません。
ただ、それで安心はできない。相手が受け取れないものを差し出しているわけですから、実質的には同じことです。障害福祉サービスの相談支援事業者についても、同様の規定があります。
2. 分かれ目は金額ではなく「対償かどうか」
よくある誤解が、金額で線を引こうとすることです。「1,000円までなら大丈夫でしょうか」という質問を受けたこともあります。
条文が使っているのは「対償として」という言葉です。つまり見返りかどうか。紹介してもらうため、あるいは紹介してもらったお礼として渡すのであれば、それが500円の菓子折りでも位置づけは同じになります。
✕ 対償とみなされうるもの
紹介1件あたりの謝礼/商品券・現金/訪問のたびの菓子折り/お中元・お歳暮/飲食を伴う接待/高額な物品
◯ 通常は問題になりにくいもの
社名入りのボールペン・付箋など一般的な広告宣伝物/勉強会での一般的な範囲の茶菓/訪問先が来客に出すお茶を受けること
右側についても、絶対に安全という意味ではありません。高額であったり、頻度が過ぎたりすれば、位置づけは変わります。
3. ケース別に見る、現場の判断
| 場面 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 紹介1件につき謝礼を渡す | 明確にアウト | 対償そのもの。議論の余地がありません |
| 商品券・現金を渡す | 明確にアウト | 金額を問わず財産上の利益にあたります |
| 訪問のたびに菓子折りを持参 | 避ける | 継続的な提供は、関係の見返りと見られる余地があります |
| お中元・お歳暮 | 避ける | 慣行であっても、受け取り辞退を方針にしている法人が多い |
| 飲食を伴う接待 | 避ける | 財産上の利益にあたると見られます |
| 社名入りのボールペン・付箋 | 通常は可 | 一般的な広告宣伝物の範囲。高額なものは除きます |
| 自社主催の勉強会で茶菓を出す | 通常は可 | 情報提供が主目的で、一般的な範囲であれば |
| 訪問先で出されたお茶を飲む | 問題なし | 事業者側が提供しているものではありません |
自社のやり方が適切か、確認したい方へ
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4. 渡そうとすること自体が、相手を困らせる
法令の話とは別に、実務上の理由もあります。
居宅介護支援事業所を運営する法人の多くは、金品の受け取りを辞退する方針を持っています。明文化して掲示しているところもある。そこへ手土産を差し出せば、相手は断るという仕事を増やされることになります。
断りきれずに受け取ってしまえば、今度は法人へ報告し、返送や処分の手続きを踏むことになる。よかれと思った行動が、相手の時間を奪う。この構図は覚えておいたほうがいい。
私たちが全国を回っていて感じるのは、手土産を持ってくる事業者が特別に覚えられているわけではないということです。記憶に残っているのは、担当している利用者に合う情報を短く置いていった事業者のほうでした。
5. 手土産の代わりに持っていくもの
ここが本題です。手土産を渡したくなる気持ちの裏には、何か持っていかないと申し訳ないという感覚があります。その感覚自体は間違っていません。手ぶらで訪ねて世間話をして帰るなら、相手の時間を使っただけになります。
持っていくべきなのは、物ではなく相手の業務が前に進むものです。
更新日入りの空き状況
ケアマネジャーが日常的に困っているのが、どこに空きがあるか分からないことです。曜日別・時間帯別の空き枠を、更新日を入れて毎月置いてくる。日付のない空き情報は信用されません。
受け入れ条件を可否で書いた1枚
送迎範囲、入浴の可否、医療的ケアの対応、認知症の受け入れ、緊急時の対応。ここを○×で示した紙は、そのまま検討材料になります。受けられないものをはっきり×と書くほうが信頼されます。
紹介を受けた利用者のその後
最も効くのがこれです。ケアマネジャーは、自分が繋いだ方がその後どうなったかを気にしています。様子や目標の達成状況を報告すれば、モニタリングの材料が増え、手間が減る。物を渡すより、はるかに喜ばれます。
制度改定の要点をまとめた紙
介護報酬改定の前後は、どの事業所も情報収集に追われます。自事業所に関わる変更点を1枚にまとめて置いてくる。売り込みではないぶん、忙しい時期でも受け取ってもらえます。
物を持っていく発想を、情報を持っていく発想に切り替える。これができると、そもそも手土産が必要な場面がなくなります。
6. 迷ったときの確認先
ここまで書いてきた内容は一般的な考え方であって、最終的な判断は自治体が行います。
介護保険サービスなら、指定権者である都道府県または市区町村の介護保険担当課。障害福祉サービスなら障害福祉担当課です。実際に問い合わせてみると、自治体によって温度差があることが分かります。厳格に運用しているところもあれば、広告宣伝物の範囲について具体的に示してくれるところもある。
一般論で悩み続けるより、一度自分の地域の判断を聞いておくほうが早い。営業を外部に委託している場合も、委託先がこの線引きを理解しているかどうかは確認しておいてください。
営業代行という形態そのものの適法性については、介護の営業代行は違法ではないのかで整理しています。
7. 営業する人がいない場合
手土産に頼らない営業は、持っていく情報を毎月そろえることが前提になります。空き状況を更新し、受け入れ条件を見直し、紹介を受けた方の様子をまとめる。この準備を毎月続けるのは、現場を抱えながらだと簡単ではありません。
Motherでは、介護・障がい福祉・在宅医療の研修を修了したご当地在住の認定スタッフが、貴事業所に代わって居宅介護支援事業所や地域包括支援センターへ定期訪問し、資料配布とPR、訪問履歴のご報告までを行います。紹介の対価を関係機関へ支払うことは一切ありません。
まずは、現状をお聞かせください
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8. よくある質問
訪問のたびに菓子折りを持っていくのは問題ですか?
避けてください。金額の大小ではなく、紹介の見返りと受け取られる余地があるかどうかが問題になります。介護保険の運営基準では、居宅介護支援事業者やその従業者が、特定の事業者のサービスを利用させることの対償として金品その他の財産上の利益を収受することが禁じられています。受け取る側が禁じられている以上、渡そうとすること自体が相手を困らせます。
社名入りのボールペンやカレンダーもだめですか?
一般的な広告宣伝物の範囲であれば、直ちに問題になるものではありません。ただし高額なものや、実質的に金品の提供とみなされるものは避けてください。判断の分かれ目は金額そのものより、紹介の対償という位置づけになっていないかどうかです。自治体によって考え方に幅があるため、迷う場合は指定権者に確認するのが確実です。
お中元やお歳暮はどうですか?
リスクが高いので避けることをおすすめします。季節の慣行であっても、継続的な関係のなかで金品が動けば対償と見られる余地が生まれます。実際、受け取りを辞退する方針を明文化している法人は珍しくありません。送ったこと自体が、相手に返送や報告の手間をかけることになります。
勉強会を開いてお茶菓子を出すのは問題ですか?
一般的な範囲の茶菓であれば、通常は問題になりにくいと考えられます。ただし飲食が主目的になっていたり、実質的な接待といえる内容であれば話は別です。情報提供が中心で、参加者にとって業務上の価値がある場になっているかどうかが基準になります。
訪問先でお茶を出されたら、断るべきですか?
断る必要はありません。禁じられているのは、事業者側が紹介の対償として金品を提供することです。訪問先が来客に出すお茶は、これに当たりません。恐縮して固辞するほうが、かえって相手に気を遣わせます。
判断に迷ったときはどこに確認すればよいですか?
指定権者である都道府県または市区町村の介護保険担当課です。障害福祉サービスであれば障害福祉担当課になります。自治体によって考え方に温度差があるため、一般論ではなく自分の地域の判断を確認しておくと安心です。

